介護情報基盤のセキュリティ対策は、専用ソフトを入れるだけでは完了しません。介護事業所は、個人端末を原則使わない、ID・パスワードを共有しない、公衆無線LANを使わない、離席時に画面をロックする、アクセス権限と持ち出しを管理するといった日常運用を、責任者・記録・事故対応まで含めて整備する必要があります。
この記事の結論
- 厚生労働省の「介護事業所における情報安全管理の手引き」を基本ルールにする
- 職員ごとのIDを使い、共有ID・付箋・初期パスワードの放置をやめる
- 個人端末と公衆無線LANは原則使わず、端末の持ち出し・保管を記録する
- 閲覧できる情報を職務に必要な範囲へ絞り、異動・退職時は即時に権限を止める
- 誤送信・紛失・不正アクセスを想定し、初動、連絡、証拠保全、復旧手順を決める
介護情報基盤でセキュリティ対策が重要な理由
介護情報基盤では、被保険者証等情報、要介護認定、主治医意見書、ケアプラン、LIFEなど、本人の生活・健康に関わる情報を扱います。漏えいだけでなく、誤った利用者への登録、必要なときに閲覧できない状態、職員による目的外閲覧も防ぐ必要があります。
| 守る性質 | 介護現場での例 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 機密性 | 権限のない職員・第三者に情報を見せない | 個別ID、権限、画面ロック、暗号化、施錠 |
| 完全性 | 別人の記録、誤入力、古い情報への上書きを防ぐ | 本人・対象月確認、入力確認、変更履歴、再送制御 |
| 可用性 | 業務に必要なときにシステムと情報を利用できる | 障害時手順、バックアップ、代替運用、連絡網 |
事業所で整える5層の安全管理
1. 組織的安全管理
管理者、システム担当、各部門責任者、現場職員の役割を決めます。「詳しい職員に任せる」状態では、退職や休暇時に証明書更新・障害対応が止まります。資産台帳、アカウント台帳、持ち出し記録、インシデント記録を事業所単位で管理してください。
2. 人的安全管理
採用時だけでなく、介護情報基盤の利用開始、仕様変更、事故事例の共有時に研修します。研修項目は、目的外閲覧の禁止、画面ロック、フィッシング、不審な添付ファイル、誤送信、紛失時の報告を含めます。
3. 物理的安全管理
端末は来訪者や利用者から画面を見られにくい位置に置き、無人時は施錠できる場所へ保管します。ノートPCやタブレットの持ち出しは、理由、期間、利用者、返却確認を記録し、管理者の許可なく持ち出さない運用にします。
4. 技術的安全管理
OS・ブラウザ・介護ソフト・セキュリティソフトをサポート対象の状態に保ち、職員ごとのIDと必要最小限の権限を設定します。厚生労働省の解説書は、認証の3要素のうち独立した2要素を組み合わせる二要素認証を採用することが望ましいとしています。
5. 運用・委託先管理
介護ソフト会社、導入支援事業者、保守会社が触れる範囲を契約と作業記録で明確にします。遠隔支援を受ける場合は、接続時間、操作担当、閲覧範囲、作業後の終了確認を記録します。委託しても、事業所側の説明責任がなくなるわけではありません。
端末・ネットワークの具体策
端末・ネットワーク確認リスト

カードリーダーを置くだけでは安全になりません
読取機器の有無と、端末・アカウント・権限・誤操作の対策は別です。カードを読み取る前後に、対象利用者、情報の利用目的、閲覧する職員、画面を閉じたことまで確認する手順を作ります。
ID・パスワード・権限管理
共有IDは「誰が閲覧・変更したか」を追えなくするため、原則として職員ごとのIDを使います。初期パスワードは変更し、氏名・生年月日・事業所名など推測しやすい文字列を避け、他サービスと使い回さないようにします。
| タイミング | 行うこと |
|---|---|
| 採用・配属 | 職務に必要な範囲でアカウントと権限を付与 |
| 異動・担当変更 | 不要権限を外し、新しい職務の権限だけを付与 |
| 退職・休職 | 最終勤務日までに停止時刻と回収物を確認 |
| 定期棚卸し | 利用者一覧、最終ログイン、管理者権限、共有状態を確認 |
| 事故・漏えい疑い | 対象アカウント停止、パスワード変更、ログ保全、影響調査 |
電子証明書も認証資産です。発行・設定・更新・失効の担当と期限は、介護情報基盤の電子証明書とはを参照して台帳化してください。
閲覧・入力・送信時のルール
- 利用者の氏名だけでなく、複数の識別情報で対象者を確認する
- 業務目的に必要な情報だけを閲覧し、興味・私用で検索しない
- 入力・取込後は、対象者、対象月、サービス種別、件数を確認する
- 送信先の事業所番号・名称を確認し、候補の選び間違いを防ぐ
- 画面や帳票を私物のスマートフォンで撮影しない
- 印刷物は放置せず、保管・廃棄ルールに従う
- 離席時は端末をロックし、作業終了後はログアウトする
利用目的や第三者提供に関する説明と同意は、アクセス制御とは別に整備します。現場フローは介護情報基盤の利用者同意で整理しています。
事故が起きたときの初動
被害拡大を止める
誤送信先への連絡、対象アカウント停止、端末のネットワーク切断など、状況に応じて拡大を防ぎます。
責任者へ報告する
隠さず、発生時刻、端末、利用者、操作、表示内容、送信先を記録して管理者へ連絡します。
証拠を保全する
むやみに初期化・再インストールせず、ログ、画面、メール、端末状態を保全します。
影響範囲と報告先を確認する
対象者、情報項目、件数、閲覧・送信の有無を整理し、法令・契約・公式窓口に基づく報告を判断します。
復旧と再発防止を行う
安全を確認して復旧し、手順、権限、設定、研修を見直します。
職員を責める前に早期報告を優先する
報告が遅れるほど影響調査と回収が難しくなります。誤操作や不審な挙動に気づいた職員が、判断に迷ってもすぐ連絡できる窓口と、夜間・休日の連絡先を用意してください。
よくある質問
個人のスマートフォンで介護情報を確認してよいですか?
厚生労働省の解説書は、個人端末で個人情報を扱う業務を原則行わないとしています。やむを得ない場合は管理者許可と十分な対策が必要ですが、事業所管理端末を基本にしてください。
IDを職員間で共有してもよいですか?
避けてください。操作した職員を特定できず、退職・異動時の停止も困難になります。職員ごとのIDと必要最小限の権限を設定します。
ウイルス対策ソフトがあれば十分ですか?
十分ではありません。端末更新、権限、認証、物理保管、教育、誤送信防止、ログ、事故対応を組み合わせます。
公衆Wi-Fiを使ってよいですか?
厚生労働省の手引きでは、公衆無線LANを業務で使用しないことが確認項目に含まれます。事業所が管理する安全な回線を利用してください。
事故を防ぐ運用と起きた後の初動を分ける
セキュリティ対策は、端末にソフトを入れるだけでは完了しません。誰がどの情報を閲覧・入力・送信できるかを決め、退職・異動時の権限削除、端末紛失時の連絡、バックアップと復旧を業務手順に組み込みます。
事故や誤送信が疑われる場合は、原因を調べながら操作を続けず、該当端末・アカウント・送信先を記録して責任者と指定の窓口へ連絡します。個人情報保護や自治体の報告ルールに関わるため、現場の判断だけで公表・削除を決めないでください。
月次で確認する項目
まとめ
安全性は、毎日の小さな確認を記録できる仕組みで決まる
介護情報基盤の安全管理は、端末やソフトの導入だけでなく、個別ID、権限、画面ロック、持ち出し、送信確認、事故報告を一つの運用として定着させることが重要です。厚生労働省の手引きを自事業所のチェックリストへ落とし、少なくとも年1回と大きな制度・システム変更時に見直しましょう。
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